ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・9

ffから瞬時にppを出すとき(subito piano)の身体の扱い方

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

瞬時に音量を増やす場合はそれほどの苦労はないと思われますが、その逆で瞬時に(「間」も取らず)音量を減らす技術に苦労する方は多いと思います。(私も現在、バッハ・ブゾーニの「シャコンヌ」に取り組んでいて、92小節目から93小節目に入るところで実験中)

呼吸で対処する、イメージを用いる、身体構造を考える、と対処方法は様々ありますが、ピアノ演奏における、デクレッシェンドや「間」さえも取らない急激な音量の変化の考え方と対処について、私なりの方法お伝えしたいと思います。

~そもそもffを出している時、身体には何が起こっているか?~

ピアノの音の強弱は打鍵の落下スピードで決まります。強く出したいときは➡落下スピードを速く、逆に弱い音が欲しい場合は➡ゆっくりと落下させ打鍵します。もちろん、一定以下のスピードで打鍵すると打鍵されたハンマーが弦まで届くことが出来ず撥弦出来ないので注意が必要です。

ちまたでは「脱力」という打鍵がブームとなっていますが、正確な表現ではないので、もう少しだけ具体的に順を追って起こっている事を説明すると・・・

・重力を利用して指と腕を落下させ➡鍵盤に落ちる瞬間に数多くある指の伸筋と屈筋を拮抗させて張りを持たせて打鍵します。腕にある指の筋肉は疲れやすいので手の中にある骨間筋や虫様筋を主に使うのがよいでしょう。(もちろん使用するのはこれのみではなく全身にある他の筋肉も少しづつバランスよく使います)

・さらに音量が必要になるときは肋骨のサイドにある前鋸筋(別命ボクサー筋)を取り入れます。前方に突くようにスピードを上げて打鍵をするとさらに音量を増すことが可能になります。

前鋸は肩甲骨を前方にスライドさせる働きがありますが、腕立て伏せなどをする際は僧帽筋と共に肩甲骨を固定させて身体を持ち上げます。私はこの腕立て伏せの時の肩甲骨の使い方をffの打鍵の際には使用しています。(肩甲骨を固定し腕を前方に突く動き)

            前鋸筋
          僧帽筋
    この中部繊維を肩甲骨固定に使用

~ではppを出している時の身体は?~

弱い音が欲しい場合は➡スピードを落として落下させ打鍵します。この時肩甲骨を固定する筋肉は必要はなく重力を利用して落下させます。繊細に音が途切れずppを出すには、関節も脇も緩んだ状態であり、なおかつ腕は鎖骨から指先まで続く長い部位だと正確にマッピングすることも大切です。

~では本題のff➡ppの瞬間でやることとは~

指や前腕だけに注目しがちな、強弱のコントロール。もうご存じの通り鍵盤に触れている指から遠く離れた軸骨格の影響が非常に強いです。

ffで使われた肩甲骨周囲の筋肉の張りを緩め➡ppに入るということ。これは理解できることですが、これを瞬時に行うという瞬発力が容易ではない。ましてや緊張を伴う本番となるとなおさらです。

そこで⇩

①トップジョイント(脊椎の一番上にふんわりと頭をのせ)を意識。

まずは身体本来の機能を充分に使えるスイッチをオンにします。(それについての解説はコチラ

②胸郭に固定された肩甲骨を解除(前鋸筋と僧帽筋中部繊維を緩め、動けるようにする)

この二つを同時にしかも瞬時に出来るようになるには、ある程度の習得期間は必要ですが、確実に音色に変化が表れるでしょう。

このケースもそうでしたが、問題が改善しないときはその問題箇所付近にある筋肉よりも、離れたところに問題が隠れているというケースが多いという事も知っておくとお得です。

ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・8

演奏の「方向性」を考える

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

私がピアノ演奏に取り入れている「アレクサンダーテクニーク」という技術の中に7つの原理というものがあり、その中の一つに[direction]という原理があります。

[direction]は日本語では「方向」「指示」「命令」「動き」「管理」等と訳されますが、アレクサンダーテクニークで使用される際は「方向性」と訳されることが多いようです。辞書(実用日本語表現辞典)には「何かの物事を進める場合の進め方や方針の在り方などのこと」とあり、「目的に至る手段」という考え方がしっくりくるようです。

~F.Mアレクサンダー氏の「方向性と抑制」~

アレクサンダーテクニークの生みの親であるF・Mアレクサンダー氏の著書「the use of the self」の中には彼の経験を含めて「方向性」に関することが書き残されています(以下抜粋)。

・使い方の方向性を感覚に頼ってはいけない

・自分の使い方の方向性(自分を使う時)にどう指示を与えているか?

・最初の結果を達成しようという刺激への本能的な反応は、はじめに抑制されただけではなく、新しい使い方の方向性が、出されている間中、ずっと抑制され続けていることになる。

私の場合は「抑制」という言葉はあまり意識して使わないようにしています。(方向性やプランを確実に実行することであえて「抑制」ということを実行に加えなくてもいいのではないか?という考え方からです)現在継承されているアレクサンダーテクニークの技術にも変化は見受けられますが、この本を読む限り、執筆した当時の彼は常に「方向性」のなかに「抑制」をセットにして考えていたように感じます。

~演奏に必要な「方向性」とは~

では私たち演奏家が演奏する際に方向性を定めるにはどうすればよいのでしょう?

歩く・立つ・座るなどの日常動作も「動き」であり、その際にも手順が大切ですが、演奏においてはさらに情報を処理し続けながら動きの指示も多く・複雑になっていきます。

どのような動きであっても全く同じ定型のプランというものは存在しません。とくに複雑化する音楽(演奏)においてはなおさらですが、おおよその計画の必要性は感じます。その下地があったうえで、その場その時に応じた対処法を身に着ける必要があるのではないかと私は思うのです。

演奏の方向性=望みの演奏をする

次は具体的なプランについて以下にまとめてみました。

①頭が動けるように脊椎の一番上にふんわりとのせる(この身体本来の動きが可能になるスタートボタンは必須!

②次に望み・到達したい演奏を考える

③②のやりたい演奏をにするにはどんな技術?何が必要か?を考える

④それに必要なパーツ(関節や筋肉)の使い方を選択する

ステージでは身体の筋感覚に頼る自動演奏に任せることも経験上必要な場面はありますが、とくに技術的に難しいパッセージの個所などでは順序立てた明確な選択が必要なように感じます。

ただ、私たち演奏家、とくに専門的に学ぶ意識が強ければ強いほど、より高い技術を追いがちです。単なるアクロバットな演奏に陥らぬよう、まずは何を表現したいのか?という一番の根幹となる「方向性」を大切にしたいものです。