各部位の観察と動きが起こる関係性

~解剖実習(オンライン)を経験したことで気づかされたこと~

全ての音楽家に必要とまでは申しませんが、解剖学的な学びも演奏に取り入れることは大切だと思っています。

音楽家である私が今現在興味のあることの中に「身体のことを知る」という欲求があります。この知りたいという欲求から今年の5月にはコロラド州のデンバーで解剖合宿に参加する予定でした。しかし・・・世界はこの状況になり、1年前から準備していた合宿も延期が繰り返され現在に至ります。

そんな中、日本ではお盆と呼ばれる時期にコロラド州デンバーからのオンラインで5日間の解剖実習体験をさせて頂くことが出来ました。先生方や学びを提供してくださったドナー(アグネス)、そして通訳の方には本当に感謝です。

生命活動をしている「人」と活動を終えた「人」では異なることは勿論多い。このような学びに異論を唱える音楽家も少なくないようですが、自分の中の「探求欲」に従って動き、学ぶことを信じています。

今回の体験は深く濃い学びでしたので、1つの記事にまとめることは難しいのですが、部分(各部位)と全体(身体全部)の繋がりと関係性にしぼり、観察をまとめてみたいと思います。

目次
1.音楽家が解剖学を学ぶということ
2.オンライン筋膜解剖
3.筋膜解剖の著者の言葉から
4.まとめ

音楽家が解剖学を学ぶということ

私が学生の頃(30年近く前)身体を痛めたことで、その部位に負担がかからないように注意するようなメンテナンス的な学びはありました。ただ、演奏技術的なことで解剖学的な指導を受けたことはありませんでしたし、率先して取り入れていた演奏家も周りにはいませんでした。もちろんこれは私の周りに限ったことだけだったのかもしれませんが、日本の演奏家が学びの一環として身体のしくみを探求することを取り入れるのが一般的になったのは、それから少しばかり後になってのことのような気がします。

アスリートが身体で起こっていることを科学的に分析し、数値化したものを取り入れる事は、相当前から抵抗なく行われていたと思われます。音楽の世界ではどうだったのでしょう?おそらく数値化することや技術に特化することが本質から逸れているように扱われてしまう風潮があったことは否めません。(少なくとも私の周りでは、抽象的で感覚的な指導、そして経験値からの指導が主流でした)ただここ最近はそのような感覚重視の考えだけに留まらず、芸術も様々な学び方と考え方が受け入れられてきているのではないでしょうか。

オンライン筋膜解剖

さて、話を解剖実習の方に戻したいと思います。今回のオンライン筋膜解剖(3時間×5日間・休憩なし)は私の不安をよそに滞りなく進んでいきました(オンラインとはいえ自分に異変が起こるかも?と多少なりとも心配していた)。解剖を進めていくコロラド州のご献体アグネスとチームがいるオペ室(解剖室?)、解説者のトーマス・マイヤース氏、東京からの通訳の3か所からのオンライン実況です。

※ここからは医療関係者ではない素人のレポート的な内容になるので興味のない方は「筋膜解剖の著者の言葉から」へお進みください。

第1日目は表皮・真皮・皮下組織の三層を観察:死後ということでご献体(アグネスと名付けられたので以後アグネスと呼ぶ)は硬直状態とばかり思っていましたが、この筋膜解剖では薬品(ホルマリンなど)が一切使用されていない冷凍の身体だったため、アグネスの関節は自由に動かすことが可能でした。一時的に死後硬直はあるようですが、その後は外からの力で動くようです。

また筋膜は表層部分だけを覆っているものではなく、皮下組織を覆っているものと、筋肉を覆っているもの等いくつかの種類に分けられているそうです(料理の時に鶏肉の肉と皮の間に在る薄い透明な膜は浅筋膜だったと知る)。各部位を包みこみ、間を縫うように(絡み合うようにという表現の方が適切かもしれない)神経や血管が張り巡らされていました。その様子はまるでWEBのようです。上肢の筋膜は動きが多いこともあり、体重を支える下腿の筋膜に比べて薄いものでもありました。筋膜は動きを制限するものでもありますが、それとともに動きやすくするものでもあると解説してくれたのはトーマス氏。手首にも在る腱を束ねる支帯はそれ自体が独立したものではなく筋膜が厚みを増して帯状のトンネルとなっているということもピアニストとして知ることが出来たのは幸いです。

第2日目は首・肩周りの観察:昨日と同様にアグネスの首は右を向いたり、頷くような動作も柔軟に出来ました。首は小さなエリアですが動きにかかわっている大切な部分ですし、鎖骨を通して上肢に伝わっている様子です。表皮をめくった後に動かすことで、たくさんの小さな筋肉の動きが合わさって大きな動きとなっているのが見えました。すべての筋構造が筋膜と関わって動くことで筋肉が孤立せずに連続している様子です。

その後は声帯・大胸筋・三角筋・・・・肩こりで悩む主婦としては僧帽筋も興味深く観察出来ました。表皮の上から見ると、盛り上がったように見える筋肉ですが意外にも薄っぺら・・・ただトーマス氏によると薄くても大きな力は発揮出来る筋肉だと仰っていました。ピアノを弾くうえでは腕の動きにに関わる筋肉も押さえておきたいところです。外腹斜筋→前鋸筋→広背筋と繋がっている様子も興味深かったです。また中年真っ盛りの女性としては憎い脂肪も、じつは伝達や分配にも関係していると知り(ケガも防いでくれるし)あらためて無駄なものはないと実感です。

第3日目は関節と下肢:私の経験でもある事なのですが、上肢のどこかに痛みがあると下肢がガクガクしたり違和感を感じたりします。これは筋膜のラインが繋がっていることから起こる事だそうで、上肢からの筋膜ラインのつながりを学びました。大腿四頭筋が後ろ側まで回り込んでいる様子やハムストリングの二筋がカヌーに乗り込んでいる様子に似ている形であるという事なども興味深く拝見しましたが、中でも衝撃だったのは坐骨神経です。ピアニストは長時間固い椅子(柔らかい椅子もあるけれど高さが変えやすいものは固い)に座り続けることも多いので、生徒さんからも坐骨神経痛の相談をされたことがあります。ただ恥ずかしながら「坐骨神経痛」と漠然と記憶しているだけで、まさかこの神経自体がこんなにも太くて長いとは想像もしませんでした。梨状筋から始まってハムストリング→膝の裏を通過し足底まで続く神経で、(名前も変わりながら)枝分かれし、なんと長さは1メートルにも及んでいました。後から調べたのですが、人体の神経の中で一番長いそうです。

第4日目は腹腔:お腹の中の内臓と対面する前は、4日目とはいえ緊張が走りました。内臓に達する前に筋肉で最も?メジャーな4層の腹筋群の層を観察していきます。腹筋群自体の役割は沢山ありますが、まず第一に骨がない部分なので内臓を守るお役目があります。個人的には水泳選手を見ていて、6パックと呼ばれているのに8パックに分かれているのが不思議でならなかったのですが、やはりアグネスの腹直筋も8個に分かれていて安心しました。(このホットサンドのように分かれている白線という腱画は、内蔵の重さを支えるのに骨がないため、必要になったということです)。そして、骨盤にとまっている腹直筋が収縮すると肋骨が引っ張られ呼吸を制限するという事実もトーマス氏は仰っておられました。このことは吹奏楽系の演奏者は周知の事実ですが、直接関係のなさそうなピアニストであっても呼吸が演奏に影響することは経験上あることです。

第5日目は骨盤底:アグネスの死因は肛門の癌であったために人工肛門を付けておられました(ご献体の病状などは事前に知らされていないので開腹しないと分からないらしい)。この為、前日に骨盤底の観察が出来ず、執刀してくださったトッド・ガルシア氏が5日目の実習時間までに観察できる状態にまで技術を駆使してしあげてくださいました。その他にも1日に1万7千回呼吸のために動く横隔膜を観察。

筋膜解剖の著者の言葉から

5日間のオンラインの解剖は貴重な体験でしたが、それ以上に心に強く刻まれたことがありました。初日の冒頭に「アナトミートレイン」の著者、トーマス・W・マイヤース氏が仰っていた言葉を書き留めておきましたのでご紹介します。

「一般的な解剖学では筋を単独のものとしてとらえます。人間を車に例えるとすれば、各筋や臓器は部品と考え、それぞれの機能を持つ部品を集めてボディーに詰めて精巧な車になる・・・といったイメージです。解剖学の書籍では部位を解剖学的に分離することで覚えやすくしていますが、私たちの身体は元々は一つの細胞であったことを忘れてはなりません。植物も一つの種から枝分かれして成長していくように、それぞれの部位は単独で存在しているのではなく複合的に関わりあっています。」

まとめ

これまでの身体の中の動きの知識は本で読んだり、聞いたりしたことだけのものでした。もちろん実際に自分で動くことや演奏は出来ますが身体の中を見ることは出来ません。それでも理解していた「つもり」でしたが、今回の解剖実習で「つもり」になっていたことに気付かされました。部位それぞれの機能を知ることも大切ですが、互いに関わりあいがある・・・それも、その時の状況によって影響され方も様々。今後も演奏するものとして自分を実験材料にしていくことは勿論、学びは生きている限り続くと思います。少し大げさな表現でしたが・・・これからも自分の興味のあることを掘り下げ、自分自身の演奏や生徒さんへのアドバイスのヒントを集めていくことが出来そうです。

※5日間の内容を分かり易くまとめる力がなく、とりとめもない児童の感想文のような記事になってしまいました。ここまで読んで頂けたことを感謝致します。

筋感覚をきたえて自分の理想の音を作る

ピアノは指だけを動かして弾いているのではなく、常に身体全身の様々な部分を協調して動かしているという事は、もうご存じかと思われます。今回は音(楽)を作り上げるための、全身の情報を得ることに欠かせない「筋感覚」についてまとめてみました。

目次
1.筋感覚とは?
2.ピアニストが筋感覚を養うメリット
3.筋感覚を上げるには
4.まとめ

筋感覚とは

「筋感覚」は普段、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の5つの感覚に新たに足されるべき、六つ目の感覚とも言われています。

筋感覚・・・視覚や触覚など古くから言われる感覚からの情報が一切なくても、自分の身体の位置や動きを知ることが出来る、厳密な意味では感覚情報と呼べるものです。私たちの身体には、位置と動きに関する情報を集めることのできる特殊な※神経終末が(主に関節や結合組織の中に)存在しているのです。情報を脳に送るこの神経は、映像,匂い、音、味、手触りといった他の感覚情報を伝達する神経とは異なり、「運動」に関する情報を脳に伝達します。したがって、この感覚は「運動覚」あるいは「筋感覚」他・・と呼ばれています。※神経終末・・・筋肉や腱の伸長に反応して活動する、筋紡錘やゴルジ腱器官など、感覚神経の末端にある固有受容器   『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋

このように私たちが普段当たり前のように使っている機能、例えば・・・目を閉じて頭の上に手をのせたり、手を見なくても思うような形に変えることが出来る、といった身体の様々な部分の位置や動き、身体の曲がり具合や筋肉の力の入れ具合を見なくても、感じることが出来る機能のことを言います。

※一般的に呼ばれる「筋感覚」という言葉は医学用語ではありませんが、深部感覚(深部知覚・深部覚)・固有感覚・固有受容感覚・自己受容感覚などとも呼ばれています。「身体内部の目」のような働きをさします。

ピアニストが筋感覚をきたえるメリット

「ある音楽をのイメージを思いついたとき、それがすぐさまイメージした音楽を奏でるのに必要な動きの筋感覚的な感覚に変換されるような(中略)音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるかどうかは、筋感覚を育て、身体との一体感を養い、優れたボディーマップを獲得できるかにかかっています。『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋」

上記にもあるように、身体への気付きを養うこと、そして筋感覚」を育てることは動きの質を高めることになります。筋肉の「トーン」や「張り」また「収縮度合い」のグレーディング(感度)を上げて、音楽的要素と結び付けられるようになれば遠回りすることなく、どこをどうやって、どのくらい使えばいいか?が分かるようになるのです。やりたい演奏を確実に引き出してくれるツールになるのではないでしょうか。もちろん、その選択肢は数多くあるので、観察➡実験➡結果を繰り返し自分に最適な選択をすることは必須です。

筋感覚を上げる方法

筋感覚を上げるには、今までの使い慣れてきた習慣をいったん手放すことも大切です。ピアノの前以外でも、普段から新しいやり方を挑戦し取り入れてみましょう。

例えば…聞き手ではない方でアイフォンの操作をしてみたり、人差し指ではなく薬指や小指で操作する。他にも、電車のつり革につかまらず脚や体幹の筋肉を意識して重心のバランスを変えてみたりするのも面白いですね。普段使い慣れないものを使った時に感じる違和感を✖とせず、まずは実験しそれを分析してみる。これは身体の内部に目を向けるきっかけとなり、普段使わない筋感覚を上げることにも繋がるでしょう。

まとめ

ピアノの前はもちろんですが、その時間だけではなく、こんな感覚を普段から磨くことも大切です。実験し検証することを楽しめる自分を育てることは、ピアノの成長に繋がるでしょう。

演奏者が自分の望み通りの演奏を作り上げるには、思考と身体を改革していくことが大切だと常々思います。そのためには音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるようにすることが重要な要素の一つとなるのではないでしょうか。

自分の作り上げた音楽(演奏)が全ての人と共感し合えるかどうかは誰にも分かりません(自分の望みを無視することで、より多くの聴衆が好む演奏を作り上げることも出来るかもしれません)。ただ、自分の信じる演奏が聴衆の周波数と一致することはあります。あのゾーンにも似た感覚を全てのピアノ奏者に経験して頂きたいと心から願っています。

自粛期間の棚卸し

~ピアノ講師の家事のウエイト~

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

緊急事態宣言の発令や世の中の新しい生活様式の変化で、行動や考え方を見直せざる得なくなった方が少なくないと思われます。今まで見えなかったものが見えるようになったり、今までの「あたりまえ」に疑問が湧いたりと、私自身も自分に向き合う時間が取れたことで、自分自身の行動を客観的に観察することが出来ました。今回はピアノ講師の家事についての観察(気付き)です。ご興味ある方はお付き合いください。

        
目次
1.仕事と家事
2.自動化された「動き」とそのメリット
3.感情から発動された「動き」のメリット
4.選択の自由
5.まとめ

※ご興味ある方はお付き合いください(しつこい・・・)。

仕事と家事

仕事何かを作り出す、または成し遂げるための行動・生計を立てる手段として従事する事柄・職業・業績 (デジタル大辞泉より)

家事・・・家庭内の事情や事柄・「掃除」「洗濯」「食事の支度」「育児」など家庭生活に欠かせない仕事。(デジタル大辞泉より)辞書から抜粋

「仕事」と「家事(家庭の仕事)」の配分は家庭のある働く女性働く、家庭のある女性?)には長年の課題です。

1980年頃は専業主婦の割合は約65%だったのに比べ、2018年では約33%(「厚生労働白書」より)となり、家庭のある働く女性は着実に増えています。※兼業主婦という言葉もありましたが、ここでは使用を控えます。

私も、もれなくこの「家庭のある働く女性」の一人です。

自動化された家事の「動き」とそのメリット

通常の私の毎朝の日課は、その日にやるべき家事内容と外出の要件、を全て書き出し、こなしたものから順にチェックして消すという「ミッション達成型」です。クオリティーに拘り過ぎず、こなせたかどうか?が私的には重要です。

午前中に夕食準備までのすべての家事を終わらせるため、感情に問いかける時間はあえて取りません。掃除・洗濯・そして食事も栄養バランスを考え(つもり)、尚且つお腹を満たす食材を考え調理し、完結するまでの作業中はいかに時短でできるか?ということのみ。ただ、やることが視覚化されているので最短の作業時間と計画遂行の「達成感」が自分の※承認欲求を満たしてくれます。自分で自分を褒めるという感覚に近いと思います。他者に賛辞を求めないので自分一人で完できることはメリットと言えるでしょう。

承認欲求・・・『他者承認』と『自己承認』の2つがあるが、上のケースは後者の『自己承認』:自分で自分を認めたいという欲求にあたる

         任務完了!

感情から発動された家事の「動き」とそのメリット

そんな日々が日課でしたが、コロナ禍の緊急事態宣言の自粛でその必要性を感じなくなりました。ピアノ教室も休講、子供たちも勿論休校で習い事もゼロ・・・時計を見なくてもお日様の高さと動きで生活できるような原始的な感覚です。(どこかで味わったことがある感覚…幼児期かな)

そんな日時計と腹時計を頼りにした環境は自分の感情を含めた「動き」を優先させてくれました。食事を例に上げるならば、食べたいから作る!とか、さらに美味しく完成させる!というような感じです。感情を伴う動きは集中力が持続し、作業中も楽しめるのがメリットです

選択の自由

6月に入り、自粛もひとまず解除され、以前のリズムが少しづつ戻って来ました。上のように感じた経験から「『感情から発動された動き』を採用して、いわゆるポジティブな生活が新習慣に!」となる結末ではあまりにも応用力がない(笑)。

「自動化された家事」は感情のエネルギーが少ないのでその後の仕事に支障が出ない。これはこれで充分使えます。そして、「感情から発動された動き」は感情の分量を調節することで変化と集中力をが出せると今回の期間で実感できました。全力で家事と仕事の両方に打ち込むのも憧れますが、それは私にとっては理想論。そんなことをやっていては夜までの仕事がやりきれない(あくまでも私のケースです)。

まとめ

自分の行動を客観的に観察することで気が付かなかった・見ようとしていなかった行動の意図と変化が見えた。そのことが今回の棚卸し作業での気付きです。

観察の結果から何を取り入れるか、取り去るかをその都度考えること。自分の行動も感情も選択することが出来るということ学びました。何が正解か?という答えは一つではなく、しかもその時の様々な状況でも選択は変わっていくでしょう。心穏やかに生きる私の新生活習慣の一つとして覚えておくことにいたします。皆さんも「生活習慣の棚卸し」おススメします!

※そして、ここまでお付き合い下さったことに感謝です!

練習する量(努力)に上達の見返りを求めていませんか?

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

ピアノの上達や、何かしらの技術を習得するという事には練習は不可欠です。練習した時間に比例した結果が与えられはず・・・「努力は裏切らない・努力は報われる」と殆どの人々が思っている(願っている)ように感じます。・・・でもそれを言葉のまま信じてよいのでしょうか?

目次
1.努力は裏切らないって本当?
2.目的を持った練習の重要性
3.意味のある工夫とプロセス(手順・方法)

「努力は裏切らない・報われる」って本当?

坂道を登る人のイラスト

常に時計の針を気にしながら、「練習時間」の記録更新に喜びを覚えた幼い時期を過ごした方は少なくないのではないでしょうか(もれなく私も)。学び始めの曲の場合、反復練習も必要ではありますが、指導者や保護者の誤った声掛けによっては時間をかけてやった分だけ上達できると思い込んでしまうことがあります。

関節痛のイラスト(手首)

さらに目的(望み)から結果までの間のプロセスをすっ跳ばしたやみくもな反復練習は時間の浪費だけでは済まず、手の故障に繋がる場合もあります。

目的を持った練習の重要性

旧100ドル札のイラスト
ベンジャミン・フランクリン👆

アメリカの建国の父ベンジャミン・フランクリン(時は金なりの名言を持つ)も「同じことを何度も繰り返しながら違う結果を期待することを「狂気」という」と言ったと記録されていますし、

何を練習したか?ではなく、いかに練習したかが重要であるとは ピアニストであり最良の解釈家として高く評価されているバックハウスの言葉。
「ただ練習すれば良いのではなく、どのように練習するのかを”考える”ことがとでも大切である」と語っていたそうです。

意味のある工夫とプロセス(手順・方法)を考える

ピアノだけに留まらない事ですが、何かを習得したいと思い立った時に気持ち的な焦りから数打てば当たる「がむしゃら」行動に出がちです。ここでまず大切なのが、冷静に手順・方法を考えること。以前に記事に書いたものと類似しますが・・・
①のぞみを明確(具体的に一つに絞る)にする②観察する③分析する④プランを立てる⑤実験する⑥結果を判断する
仮にこれがプランAとして、そのプランAが思い描いた結果に至らなかった場合は、プランBを練るべく②~⑥を繰り返す。

観察を伴い、方法を工夫した思考錯誤が上達への近道だと思うのです。(自分一人で限界がある場合は指導者等に観察してもらう選択も出る)

量を求めるのではなく質にこだわった練習を重ねた場合の「努力」に限り「努力は裏切らない・努力が報われる」と言えるのかもしれません。

※コロナの緊急事態宣言もあり、実習生の募集は一旦締め切らせて頂きます。5月以降に再度募集のご連絡を申し上げます。

 


意識的思考を使う日々のピアノ練習~主観的な感情を振り返りながら~

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

今回は日々の練習とその根っことなる主観的な感情について心掛けておくとお得なことを「思考」の面からお伝えしたいと思います。

意識の高い人のイラスト(女性)

意識と思考

意識・・・・一般に「起きている状態にある事(覚醒)」または自分の今ある状態や、「周囲の状況などを認識できている状態のこと」を指す。Wikipediaより抜粋

思考・・・・考えや思いを巡らせる行動であり、結論を導き出すなど何らかの一定の状態に達しようとする過程において、筋道や方法などを模索する精神の活動である。Wikipediaより抜粋

タイトルにある「意識的思考」とは今置かれている状況を認識しながら結論を導き出すための考えや思いを巡らせる行動にあたると言えるでしょう。

今、何がやりたくて(出来るようになりたくて)そのためには何を選択するか?

思考活動には意識的思考と、自動的思考の2つのシステムがあるそうです(分類する言葉は他にもあります)。

どちらも、その場にふさわしい使い方や役目を誤らなければ効果的に使うことが出来る思考システムです。自動的思考は脳のエネルギーの消耗が少なく・高速で処理できるというメリットがあります。何も考えずにピアノに向かうとこちらが働き始めるのは生物学的に捉えた人間としては当然といえるでしょう一方、意識的思考は脳のエネルギー消耗も多く、処理が遅いため本能的に使うことを避ける傾向が強くありますが問題決を求める場合には意識的思考が有効でしょう

参考:思考が使用するエネルギー・・・脳は重量換算では全身の約2%であるにもかかわらず、エネルギー消費量換算では全体の約20%のエネルギー消費を行う。厚生労働省のe-ヘルスネットより

脳のイラスト(人体)

核となる主観的な感情を確認する

子供は演奏の結果を親や先生に褒められることを目的としてしまっている場合が多く見受けられます(依存性の高い大人も例外ではない)。アップル創始者の一人であるスティーブジョブスの「人からの承認は意味をなさない」と残した言葉にもそれをうかがい知ることが出来ますが、自分の課題と認識していたつもりが実は他者の課題と気づかず邁進している。これは承認欲求を満たすためのもので、エスカレートすると他者からの評価に怯えることにもつながります。子供たちを教えていると頻繁に出会う複雑な事実ですが、成人しても気づかないままのケースもあります。

日々の練習ごとに目的意識は必要ですが、時折意識して振り返るべきなのが根となる主観的な感情です。何のためにピアノを弾いているのか?また何を望んでいるのか?れがちな自分の方向性を保つことが出来るでしょう。

他者からの評価に怯えることなく、本来の自分の目的・望みを確認しながら、意識的な日々の練習や活動を心掛けたいものです。

演奏中の思考はパフォーマンスに大きな影響を与える

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術をを身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です

先日、某テレビ局の「てっ○ん・・」という番組のワンコーナーであるピアノ対決を視聴。以前からその番組の存在は知っていましたが、同じ演奏する立場として様々な感情が沸き上がってくるため、視聴する事はありませんでしたが、今回は思考が身体に与える影響について興味が沸き、観察することに。

芸能人であるピアニスト数名(大多数が音大卒)が二つの課題演奏の合計点て頂上を決めるというこのコーナー、

1stステージの課題は三曲弾いてノーミスであれば300点、ミスが有ればその分減点で競いあう(5つ以上のミスで演奏終了)というもの。加点は一切無し

2ndステージ表現力・正確性・リズム・難易度・音色の5つを審査項目とし、25名の審査員が挑戦者の演奏を採点していくもの。

両方のステージ演奏では必ず楽譜が置いてある。

加点なし・減点法での採点

私が注目したのは1stステージ。

聴衆を音楽の世界に誘うのに雑音(ミスタッチ)が無いに越したことはないし、ミスタッチによる減点は、分かりやすく公平性はあるように思えます。ただ、長年音楽をやってきたものとしては、「ミスタッチ減点法」の減点オンリー審査は正直言って表現をしたい音楽家にとっては驚きの採点方法であるし複雑な気持ちであります(個人的感想です)。

音楽を表現するということについては今回のお題ではないので・・・「ミスタッチをしてはいけない演奏」というケースの本番中の演奏者の思考が身体に与える影響を考えてみます。パネルモニターにミスのマークが点滅し、演奏者はとにかく別の音に引っかからないように注意して演奏しなければならない。(もしかしたら和音の1音が抜けた場合はミスにはなっていないかかもしれませんが)

「ミスしないように」の呪縛にとらわれた演奏者の様子(観察)

番組中の演奏者のほとんどはこの審査中、ポロポロとミスをする。(隣で観ていた素人の夫はほぼ分からない程度のミスも多い)。肩は上がり首が本来の長さより短く見える。また手の甲には腱がクッキリと浮きあがり続けたままで、力を抜く間も与えていない。プレッシャーを想定し準備をしてきたとは思いますが、なかなか想定内にはいってない様子。

何がミスを引き起こしているのか?

  • おそらく1stステージはノーミス演奏ということだけを念頭にこの課題に取り組んできた方がほとんど。
  • アドレナリン過剰状態
  • 練習の際にはパーフェクト演奏を可能にしたに違いないとは思われますが、練習環境と異なる環境下での演奏で筋肉が通常と異なる張りになることで、通常の想定していたコントロールでは対応できなくなることを想定して準備した方が少ないように見えた。
  • 暗譜をして練習していたであろう演奏者も楽譜が設置されることによって、時折楽譜に目をやらずにはいられなくなっていた練習時と異なる状況でコントロールが微細に狂う
  • さらに恐怖と緊張で頭と脊椎が固まっている為、四肢が動きづらくなっている。
  • ミスをしてはいけないという1stステージの否定系の指示を自分自身にし続けていることが最大の原因〜してはダメという否定形を判断できない脳が混乱し、ミスを引き起こしている。

改善点は?

  • まずは準備。可能な限り同じような体験が出来るようなプレッシャー体験を数多くする。私ならば・・人数もそれなりに用意し、ミスも聴衆に数えてもらうようなリハーサルを数回行う。
  • その際、お題の「ミスをしたら減点」を念頭に演奏した場合と、「正確な音を弾く」ということに照準を当てて演奏した場合の違いを自分自身で分析し、弾きやすいほうを採用する。

脳のクセを理解

演奏中に関わらず、脳は否定形の指示を理解できないことを自覚しましょう。

おおよそ演奏者は

  • 間違えないように
  • 止まらないように

‥という否定文を作成して演奏することが多いと思いますが、脳は肯定文のイメージしか画像に置き換えられません。間違えないようにの「間違える」という画像を頭にくっきりと描いてしまいます

脳のクセに対応する

では何をイメージすればよいのか?

「ミスをしないように」を➡「正確な音を弾く」「その音の鍵盤を正確におさえる(弾く)」などと、否定文➡肯定文の書き換えを行うことをおススメします。

本番の演奏はかなりの練習を行っているため、指も自動演奏化できる状態になっています。その分、頭の中にスペースが空き、余計なことを考えがちです。この余分に出来たスペースに否定的な思考を加えるのではなく、是非、音楽に関する肯定的な思考を加えて下さい。

演奏中の思考はパフォーマンスに影響します。良い方向に繋がるような習慣を手に入れまることをおススメします。

まだまだ身体を知るとお得なことがいっぱい!演奏をさらに磨きたい方はこちらのワークショップでお会いしましょう!

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ピアノ演奏者のためのワークショップではこんなことを探求しレッスンをしています。興味のある方はお問い合わせください⇩

ピアノ演奏時の習慣的な身体の使い方

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

「緊張して何をどう弾いたか覚えていない・・・」の状況でも弾ききれるのは何故か?

これはステージから袖に戻ってきた生徒さんからよく聞く言葉です。楽器をある程度の期間取り組んできたことのある演奏者であれば何度か経験があるのではないでしょうか。(ハノンやテクニックなどの教本を半寝しながら弾くのも似たような現象です)

演奏は練習を積み重ねることで良くも悪くも自動演奏のように無意識、または別のことを考えていても弾きとおすことが出来るようになります。(これは演奏者だけでななく、アスリートも当てはまる部分があるように思います。)「筋肉が覚える」という言い方をする人もいますが、反復練習によって脳から筋肉に伝わる情報が速くなった神経路のミエリン化と呼ばれている現象ともいえるようです(詳細はこちらの記事へ)。

本番に限りませんが、繰り返しの動作によって一連の動作が出来るようになった、もしくは出来るようにさせる名称といえば、「習慣」「癖」「ルーティン」が思い浮かびます。本番にかかわる準備の選択肢として加える可能性でこの事を考えてみたと思います。

3つの言葉の意味を辞書で調べると‥

これらの言葉は同じように使われることもあるようですが、少しづつニュアンスが違うようです。

<習慣>

後天的に獲得された個体の反応様式。刺激に対して自動的に解発されやすく,変化の少い一定の形をもつことが多い。生体のもつ多くの種類の反応が習慣になりうるが,典型的なものは種々の筋運動で,これらは条件づけや知覚運動学習により習慣化されると考えられ。ある動機のもとで獲得された習慣は,のちにその動機が消失しても,他の動機のもとで解発される。これを習慣の機能的自律性という。通常,ある反応が習慣といわれるまで自動化し,定型化するためには,かなり多数回の反復が必要とされる。動物の日常行動を支配しているものは,下等動物では本能であるのに対して,高等動物になるほど習慣の比重が大きくなるといわれる。。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

<癖>

(くせ)とは、人が無意識のうちに、あるいは特に強く意識することなく行う習慣的な行動のことである。手足や体の動かし方、話し方などで同様な状況のもとで常に自動的に繰り返される傾向。広い意味では習慣の一種とみられるが、極端な場合には通常よりも不必要に偏向した反応として現れる自分は気づいていないという場合が多い。また、気づいていたとしても、特に強く意識せずに行っている行動も含む。一般に、高齢になるほど習慣で行動する傾向が強まり、そのため癖が付くとなかなか直らない傾向になる事が多い。 (Wikipediaより)

演奏における習慣(癖)は良くも悪くも繰り返しによって覚えた身体の使い方と思われます。

<ルーティン>

ルーティン(routine)」の語源は、「ルート(route)」。「ルート」にはいつも通る決まった道という意味。
「ルーティン」も毎日の仕事や家事、決まりきった質問や型通りの検査、またコンピューターでの一連の動作など同じことの繰り返しを意味する

~余談になりますが・・・演奏家やアスリートには本番前に行うルーティン、または癖があると言われています。小澤征爾さんは本番前に必ず木製のものを3回「トントントン」と叩くそうですし、去年現役を引退されたイチロ-さんの打席に入る前後のルーティンもよく知られています。プロである方はストレスなく自然に動きに入っていけるよう何かしらの決まった行動を持っていますが、中にはそこに縛られることを嫌ってあえていつもと違う行動をすると言っておられる方もいました。ルーティンに縛られないことがルーティンなのかもしれません~

ルーティンは、は習慣や癖とは少し異なっていて1つの決まった流れとして使われることが多いようです。演奏家においては心身状態をよいものに切り替える「スイッチ」を作るために有効です。それをきっかけに冷静な心理状態をキープもしくは取り戻す)ことを目的として取り入れている演奏家やアスリートは多いようです。

「習慣」「癖」「ルーティン」は別もの?

「習慣」も「癖」も後天的なもので、ある刺激に対して無意識のうちに自動的に繰り返されることは同様ですが、「癖」のひびきには「悪しき習慣」のイメージが少しあるように感じます。ルーティンは動機が意識的であると言えます。

誤った習慣的な使い方の影響

習慣となった使い方が誤っていた場合、それが習慣で強化されているがゆえに他のものに置き換えることは大変難しいといえます。もう一つの新たな使い方を取り入れたとしても、以前のしっくりした感覚にすがってしまうのです。

「今」の自分に最適なかたちで取り入れる

「習慣」や「癖」は瞬時に適応可能な動きなので、うまく使うことで演奏中も多くの動作を処理することが可能になるメリットがあります。私も演奏中に選択を切り替えることは頻繁にあります。何らかの演奏トラブルが起きた際はもちろん、感情面に集中したいときなども飛行機の操縦桿のように演奏者の判断で自動と自操を切り替えています。

人は心も身体も日々変化していく生き物です「習慣的な身体の使い方」・・・良かれと思っている「習慣」「癖」「ルーティン」も、今の自分に本当に必要なことなのか?何のために行っているのか?ということを棚卸し、選択し直す作業もときには必要なことだと私は考えます

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