ATI認定アレクサンダー・テクニーク教師によるピアノ指導

筋感覚をきたえて自分の理想の音を作る

ピアノは指だけを動かして弾いているのではなく、常に身体全身の様々な部分を協調して動かしているという事は、もうご存じかと思われます。今回は音(楽)を作り上げるための、全身の情報を得ることに欠かせない「筋感覚」についてまとめてみました。

目次
1.筋感覚とは?
2.ピアニストが筋感覚を養うメリット
3.筋感覚を上げるには
4.まとめ

筋感覚とは

「筋感覚」は普段、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の5つの感覚に新たに足されるべき、六つ目の感覚とも言われています。

筋感覚・・・視覚や触覚など古くから言われる感覚からの情報が一切なくても、自分の身体の位置や動きを知ることが出来る、厳密な意味では感覚情報と呼べるものです。私たちの身体には、位置と動きに関する情報を集めることのできる特殊な※神経終末が(主に関節や結合組織の中に)存在しているのです。情報を脳に送るこの神経は、映像,匂い、音、味、手触りといった他の感覚情報を伝達する神経とは異なり、「運動」に関する情報を脳に伝達します。したがって、この感覚は「運動覚」あるいは「筋感覚」他・・と呼ばれています。※神経終末・・・筋肉や腱の伸長に反応して活動する、筋紡錘やゴルジ腱器官など、感覚神経の末端にある固有受容器   『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋

このように私たちが普段当たり前のように使っている機能、例えば・・・目を閉じて頭の上に手をのせたり、手を見なくても思うような形に変えることが出来る、といった身体の様々な部分の位置や動き、身体の曲がり具合や筋肉の力の入れ具合を見なくても、感じることが出来る機能のことを言います。

※一般的に呼ばれる「筋感覚」という言葉は医学用語ではありませんが、深部感覚(深部知覚・深部覚)・固有感覚・固有受容感覚・自己受容感覚などとも呼ばれています。「身体内部の目」のような働きをさします。

ピアニストが筋感覚をきたえるメリット

「ある音楽をのイメージを思いついたとき、それがすぐさまイメージした音楽を奏でるのに必要な動きの筋感覚的な感覚に変換されるような(中略)音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるかどうかは、筋感覚を育て、身体との一体感を養い、優れたボディーマップを獲得できるかにかかっています。『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋」

上記にもあるように、身体への気付きを養うこと、そして筋感覚」を育てることは動きの質を高めることになります。筋肉の「トーン」や「張り」また「収縮度合い」のグレーディング(感度)を上げて、音楽的要素と結び付けられるようになれば遠回りすることなく、どこをどうやって、どのくらい使えばいいか?が分かるようになるのです。やりたい演奏を確実に引き出してくれるツールになるのではないでしょうか。もちろん、その選択肢は数多くあるので、観察➡実験➡結果を繰り返し自分に最適な選択をすることは必須です。

筋感覚を上げる方法

筋感覚を上げるには、今までの使い慣れてきた習慣をいったん手放すことも大切です。ピアノの前以外でも、普段から新しいやり方を挑戦し取り入れてみましょう。

例えば…聞き手ではない方でアイフォンの操作をしてみたり、人差し指ではなく薬指や小指で操作する。他にも、電車のつり革につかまらず脚や体幹の筋肉を意識して重心のバランスを変えてみたりするのも面白いですね。普段使い慣れないものを使った時に感じる違和感を✖とせず、まずは実験しそれを分析してみる。これは身体の内部に目を向けるきっかけとなり、普段使わない筋感覚を上げることにも繋がるでしょう。

まとめ

ピアノの前はもちろんですが、その時間だけではなく、こんな感覚を普段から磨くことも大切です。実験し検証することを楽しめる自分を育てることは、ピアノの成長に繋がるでしょう。

演奏者が自分の望み通りの演奏を作り上げるには、思考と身体を改革していくことが大切だと常々思います。そのためには音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるようにすることが重要な要素の一つとなるのではないでしょうか。

自分の作り上げた音楽(演奏)が全ての人と共感し合えるかどうかは誰にも分かりません(自分の望みを無視することで、より多くの聴衆が好む演奏を作り上げることも出来るかもしれません)。ただ、自分の信じる演奏が聴衆の周波数と一致することはあります。あのゾーンにも似た感覚を全てのピアノ奏者に経験して頂きたいと心から願っています。