各部位の観察と動きが起こる関係性

~解剖実習(オンライン)を経験したことで気づかされたこと~

全ての音楽家に必要とまでは申しませんが、解剖学的な学びも演奏に取り入れることは大切だと思っています。

音楽家である私が今現在興味のあることの中に「身体のことを知る」という欲求があります。この知りたいという欲求から今年の5月にはコロラド州のデンバーで解剖合宿に参加する予定でした。しかし・・・世界はこの状況になり、1年前から準備していた合宿も延期が繰り返され現在に至ります。

そんな中、日本ではお盆と呼ばれる時期にコロラド州デンバーからのオンラインで5日間の解剖実習体験をさせて頂くことが出来ました。先生方や学びを提供してくださったドナー(アグネス)、そして通訳の方には本当に感謝です。

生命活動をしている「人」と活動を終えた「人」では異なることは勿論多い。このような学びに異論を唱える音楽家も少なくないようですが、自分の中の「探求欲」に従って動き、学ぶことを信じています。

今回の体験は深く濃い学びでしたので、1つの記事にまとめることは難しいのですが、部分(各部位)と全体(身体全部)の繋がりと関係性にしぼり、観察をまとめてみたいと思います。

目次
1.音楽家が解剖学を学ぶということ
2.オンライン筋膜解剖
3.筋膜解剖の著者の言葉から
4.まとめ

音楽家が解剖学を学ぶということ

私が学生の頃(30年近く前)身体を痛めたことで、その部位に負担がかからないように注意するようなメンテナンス的な学びはありました。ただ、演奏技術的なことで解剖学的な指導を受けたことはありませんでしたし、率先して取り入れていた演奏家も周りにはいませんでした。もちろんこれは私の周りに限ったことだけだったのかもしれませんが、日本の演奏家が学びの一環として身体のしくみを探求することを取り入れるのが一般的になったのは、それから少しばかり後になってのことのような気がします。

アスリートが身体で起こっていることを科学的に分析し、数値化したものを取り入れる事は、相当前から抵抗なく行われていたと思われます。音楽の世界ではどうだったのでしょう?おそらく数値化することや技術に特化することが本質から逸れているように扱われてしまう風潮があったことは否めません。(少なくとも私の周りでは、抽象的で感覚的な指導、そして経験値からの指導が主流でした)ただここ最近はそのような感覚重視の考えだけに留まらず、芸術も様々な学び方と考え方が受け入れられてきているのではないでしょうか。

オンライン筋膜解剖

さて、話を解剖実習の方に戻したいと思います。今回のオンライン筋膜解剖(3時間×5日間・休憩なし)は私の不安をよそに滞りなく進んでいきました(オンラインとはいえ自分に異変が起こるかも?と多少なりとも心配していた)。解剖を進めていくコロラド州のご献体アグネスとチームがいるオペ室(解剖室?)、解説者のトーマス・マイヤース氏、東京からの通訳の3か所からのオンライン実況です。

※ここからは医療関係者ではない素人のレポート的な内容になるので興味のない方は「筋膜解剖の著者の言葉から」へお進みください。

第1日目は表皮・真皮・皮下組織の三層を観察:死後ということでご献体(アグネスと名付けられたので以後アグネスと呼ぶ)は硬直状態とばかり思っていましたが、この筋膜解剖では薬品(ホルマリンなど)が一切使用されていない冷凍の身体だったため、アグネスの関節は自由に動かすことが可能でした。一時的に死後硬直はあるようですが、その後は外からの力で動くようです。

また筋膜は表層部分だけを覆っているものではなく、皮下組織を覆っているものと、筋肉を覆っているもの等いくつかの種類に分けられているそうです(料理の時に鶏肉の肉と皮の間に在る薄い透明な膜は浅筋膜だったと知る)。各部位を包みこみ、間を縫うように(絡み合うようにという表現の方が適切かもしれない)神経や血管が張り巡らされていました。その様子はまるでWEBのようです。上肢の筋膜は動きが多いこともあり、体重を支える下腿の筋膜に比べて薄いものでもありました。筋膜は動きを制限するものでもありますが、それとともに動きやすくするものでもあると解説してくれたのはトーマス氏。手首にも在る腱を束ねる支帯はそれ自体が独立したものではなく筋膜が厚みを増して帯状のトンネルとなっているということもピアニストとして知ることが出来たのは幸いです。

第2日目は首・肩周りの観察:昨日と同様にアグネスの首は右を向いたり、頷くような動作も柔軟に出来ました。首は小さなエリアですが動きにかかわっている大切な部分ですし、鎖骨を通して上肢に伝わっている様子です。表皮をめくった後に動かすことで、たくさんの小さな筋肉の動きが合わさって大きな動きとなっているのが見えました。すべての筋構造が筋膜と関わって動くことで筋肉が孤立せずに連続している様子です。

その後は声帯・大胸筋・三角筋・・・・肩こりで悩む主婦としては僧帽筋も興味深く観察出来ました。表皮の上から見ると、盛り上がったように見える筋肉ですが意外にも薄っぺら・・・ただトーマス氏によると薄くても大きな力は発揮出来る筋肉だと仰っていました。ピアノを弾くうえでは腕の動きにに関わる筋肉も押さえておきたいところです。外腹斜筋→前鋸筋→広背筋と繋がっている様子も興味深かったです。また中年真っ盛りの女性としては憎い脂肪も、じつは伝達や分配にも関係していると知り(ケガも防いでくれるし)あらためて無駄なものはないと実感です。

第3日目は関節と下肢:私の経験でもある事なのですが、上肢のどこかに痛みがあると下肢がガクガクしたり違和感を感じたりします。これは筋膜のラインが繋がっていることから起こる事だそうで、上肢からの筋膜ラインのつながりを学びました。大腿四頭筋が後ろ側まで回り込んでいる様子やハムストリングの二筋がカヌーに乗り込んでいる様子に似ている形であるという事なども興味深く拝見しましたが、中でも衝撃だったのは坐骨神経です。ピアニストは長時間固い椅子(柔らかい椅子もあるけれど高さが変えやすいものは固い)に座り続けることも多いので、生徒さんからも坐骨神経痛の相談をされたことがあります。ただ恥ずかしながら「坐骨神経痛」と漠然と記憶しているだけで、まさかこの神経自体がこんなにも太くて長いとは想像もしませんでした。梨状筋から始まってハムストリング→膝の裏を通過し足底まで続く神経で、(名前も変わりながら)枝分かれし、なんと長さは1メートルにも及んでいました。後から調べたのですが、人体の神経の中で一番長いそうです。

第4日目は腹腔:お腹の中の内臓と対面する前は、4日目とはいえ緊張が走りました。内臓に達する前に筋肉で最も?メジャーな4層の腹筋群の層を観察していきます。腹筋群自体の役割は沢山ありますが、まず第一に骨がない部分なので内臓を守るお役目があります。個人的には水泳選手を見ていて、6パックと呼ばれているのに8パックに分かれているのが不思議でならなかったのですが、やはりアグネスの腹直筋も8個に分かれていて安心しました。(このホットサンドのように分かれている白線という腱画は、内蔵の重さを支えるのに骨がないため、必要になったということです)。そして、骨盤にとまっている腹直筋が収縮すると肋骨が引っ張られ呼吸を制限するという事実もトーマス氏は仰っておられました。このことは吹奏楽系の演奏者は周知の事実ですが、直接関係のなさそうなピアニストであっても呼吸が演奏に影響することは経験上あることです。

第5日目は骨盤底:アグネスの死因は肛門の癌であったために人工肛門を付けておられました(ご献体の病状などは事前に知らされていないので開腹しないと分からないらしい)。この為、前日に骨盤底の観察が出来ず、執刀してくださったトッド・ガルシア氏が5日目の実習時間までに観察できる状態にまで技術を駆使してしあげてくださいました。その他にも1日に1万7千回呼吸のために動く横隔膜を観察。

筋膜解剖の著者の言葉から

5日間のオンラインの解剖は貴重な体験でしたが、それ以上に心に強く刻まれたことがありました。初日の冒頭に「アナトミートレイン」の著者、トーマス・W・マイヤース氏が仰っていた言葉を書き留めておきましたのでご紹介します。

「一般的な解剖学では筋を単独のものとしてとらえます。人間を車に例えるとすれば、各筋や臓器は部品と考え、それぞれの機能を持つ部品を集めてボディーに詰めて精巧な車になる・・・といったイメージです。解剖学の書籍では部位を解剖学的に分離することで覚えやすくしていますが、私たちの身体は元々は一つの細胞であったことを忘れてはなりません。植物も一つの種から枝分かれして成長していくように、それぞれの部位は単独で存在しているのではなく複合的に関わりあっています。」

まとめ

これまでの身体の中の動きの知識は本で読んだり、聞いたりしたことだけのものでした。もちろん実際に自分で動くことや演奏は出来ますが身体の中を見ることは出来ません。それでも理解していた「つもり」でしたが、今回の解剖実習で「つもり」になっていたことに気付かされました。部位それぞれの機能を知ることも大切ですが、互いに関わりあいがある・・・それも、その時の状況によって影響され方も様々。今後も演奏するものとして自分を実験材料にしていくことは勿論、学びは生きている限り続くと思います。少し大げさな表現でしたが・・・これからも自分の興味のあることを掘り下げ、自分自身の演奏や生徒さんへのアドバイスのヒントを集めていくことが出来そうです。

※5日間の内容を分かり易くまとめる力がなく、とりとめもない児童の感想文のような記事になってしまいました。ここまで読んで頂けたことを感謝致します。

「ピアノは好きだけど練習は嫌い」のサポート術

「ピアノ自体は好きだけど練習は嫌い」・・・これはピアノを演奏する人の多くが感じたことのある感情ではないかと思います。ピアノを教える生業を選んだ私でさえも、「練習しなくても、朝起きたら弾けるようになってる!」などのほぼあり得ない奇跡が起きてくれたらな・・・と考えたものです(真面目に)。今までのブログでも「練習」というワードの記事を数多く取り上げてきましたが、今回は弾く本人ではなく保護者や指導者のサポートする立場から「練習」を考えていきます。

生存と直結する次元ではないピアノ(生存と同レベルに考えられている方も勿論います)を習うという事は「好きか嫌いか」がまず大前提。「練習も嫌いで、ピアノも嫌い」という方には、他に打ち込めるものに時間を割いた方が有意義だとお薦めしますが、「ピアノは好きだけど練習は嫌い」の経験の浅い子供たちの「練習に対する嫌悪感」の理由をひも解き、ピアノ上達のために必要な「練習」にどう導けばよいか?を考えていきたいと思います。

※子供は個性もそれぞれですので固定された方法はありませんのでご承知おきください。

目次
1.楽な方に流れる生き物は人間だけではない
2.そもそもピアノを弾くとは 
3.「練習」の持つ言葉の意味
4.「練習」は量より質
5. 自分自身でどう弾きたいか?を考えられる子供に育てる
6. 小さな成功体験から自信をつける
7.まとめ

楽な方に流れる生き物は人間だけではない

元来、子供のみならず人間は「楽な方、楽な方へと流れる」性質がある生き物ですが他の生物にもこの傾向はみられるようです。

この性質の他の生き物のひとつの例として鶯がいます。鶯は「ホーホケキョッ」と美しく泣いてメスを獲得したり縄張りを守ります。毎年、初春には「ホーホケッケッ・・・」とダメダメサウンドだった鶯たちも、練習によって上達していくさまが我が家の周辺の木々の中からも聞くことが出来ます。これは練習して上達しないと生存していけないからだそうです。ただ、80年前に日本からハワイに渡った鶯は「ホーホピッ」と単純化された鳴き声が主流らしい。周波数や音階も日本のものと比べると単純で少ないとか。これは日本の鶯が季節ごとに移動や縄張り争いをするのに対し、ハワイは同じ場所に留まり、競争が緩やからだからと考えられているのだとか。練習しなくても生きられるのであればそれに越したことはないというのは鶯も同じだったようです。

ピアノを習う子供たちに話を戻します。幼い子供は瞬間瞬間を感情優先に生きている。大人に保護してもらえる身なので日本の鶯のように練習して上達しなければ生きていけないわけではない(脅しや罰を与えれば同じ状況になるかもしれませんが)。大抵の子供は自分の問題点に向き合う事や出来ないものを努力しようということに意味を見出せないのでしょう。もちろん、幼いころから律することが得意だったり、好む方もいますが、人生経験の浅い子供たちは動物的な感覚を優先してしまいがちです。

そもそもピアノを弾くとは

ここでそもそも論。ピアノを弾くということに立ち返ってみたいと思います。ピアノを「弾く」は英語でplay、フランス語ではjouer,ともに「遊ぶ」という意味合いも持ちます。

「ピアノを上達させるにはある程度の痛み(努力・頑張り・犠牲)を伴う」と信じていたのは私だけではなく、勤勉でまじめ気質の日本人はこの感覚に陥る方が多いです。辛かった分だけ幸せはやってくる・・・逆も然りで幸せを求めるにはたくさんの辛さを経験すればいいと錯覚してしまう人も。私も含まれていますが、この考えは根性論が主流だった昭和世代の日本人に多くみられます。ピアノを弾くという事に「遊び」は存在しないという考え方です。

私はピアノを3歳から19歳までは日本人教師、20歳を過ぎてからは何人かのヨーロッパ人教師に師事を受けました。お国の違いだけではないのかもしれませんが、ヨーロッパの教師はピアノを弾く・音楽を教えるという事の根本がplay・jouerのスタンスであったことに、文字通りカルチャーショックを受けました。

先生方のレッスンは音楽に対する愛情に満ち溢れていて、なぜこの曲が素晴らしいのか?どうすればもっと素敵になるのか?の探求心を押さえることが出来ないといったレッスンでした。夢中になっている姿はまるで子供が宝物を説明する様子そのものです。「ここに楽譜があるのに(譜読みをしないで)放っておくことなんて出来ないわ」と新しいおもちゃをもらった子供が包みを待ちきれずにあけるような様子で話す先生もおられ、そのポジティブなオーラが生徒に伝染するのをまざまざと実感しました。

指導者の考え方は、生徒に大きな影響を与えます。ご両親のお考えにもよりますが、これからピアノを子供に・・・とお考えの方には幼い時期に大切なことは技術的な進度ではなく、ピアノを弾くことは「楽しい」という根っこを育ててくれる、そんな導入期の先生を慎重に選択することをお薦め致します。(すでに指導を受けている方もご両親の導き方でかなり違う意識が芽生えるはずです)

練習の持つ言葉の意味

ここで「練習」という言葉に立ち返り、意味を調べてみましょう。

練習・・・技能・芸事などが上達するように同じことを繰り返しならうこと(大辞林第三版)とあり、類義語を調べると稽古・訓練・トレーニング等があります。

稽古・・・武芸・芸事を習う事、学問、学習(大辞林)

訓練・・・ある事を上手くできるように技術・身体的練習を継続的に行わせること(大辞林

トレーニング(training)・・・訓練・教練・養成・練習・鍛錬・調教(weblio)

言葉の持つ意味からも、繰り返し行う・修行、というようなイメージが強く感じます。これは受け取る側の感覚にもよりますが、「楽・楽しい」というイメージの逆で「辛い・長い道のり」の印象が強いように感じます。

練習は量より質

1回弾いただけで出来なかったことが出来るようになるのであれば、誰も練習嫌いにはならないでしょう。出来ないものを出来るようにするという事にはある程度の時間と工夫が必要です。この「時間のかかりそうな険しい道」という負のイメージが子供たちのみならず生徒を練習から遠ざける原因の一つではないでしょうか。

では必ずしも「練習時間の長さは上達に比例する」のか?努力は報われるのか?という問題も出てきます。

一万時間の練習をこなせば、その道のプロ・活躍できるトップの一員に入れるという話をご存じでしょうか?広めたのは「天才!成功する人の法則」の著者 マルコム・グラッドウェルですが、この法則の元となる研究を行ったアンダース・エリクソン教授は単に1万時間かければよいというものではなく「質」も勿論大切だと言及していたそうです。

そう、「量」は無意味とまでは言い切れませんが「質」がもっとも大切だと言えます。

またこれは「練習」という言葉に既にマイナスイメージを持つ子供や、レッスンの時間しかピアノに触れない子供への対策ですが、課題の出し方を「練習する」ではなく➡「チャレンジする」・「挑戦する」・「実験する」に変えてみるのもひとつの手だと思います。いつもと違った視点からピアノを見ることが出来るようになり、言葉一つで変わる子もいます。

自分自身でどう弾きたいか?を考えられる生徒に育てる

ピアノ練習の量を重視するあまり、間違ったやり方を逆に上塗りして身体に染み込ませている様子を時々見かけます。とくに家での練習を数で即したり、練習時間を重要視させた生徒に多いです。

導入期~初級レベルであっても、練習の方向性をどこに向ければよいか?自分自身がどのように弾きたいのか?のイメージを持てるような言葉がけ大切です。それを指導者や保護者の方が根気よく問いかけることによって、考えてピアノに取り組むことの面白さを、自ら育んでいける子供に育つでしょう。

これは週一回程度かかわる指導者のみでは大変難しく、日々一緒に過ごす保護者のお力も必要になります。自分の幼少期も然りですが、自身の力だけで成長出来るようなお子さんも確かに存在しますが、それは「稀」な例だと思っていただくのが賢明です。

成功体験から自信をつける

子供に限らず、誰でも少ない努力で大きな成果が出ることを夢見ます。例えば今日1日で仕上がりに程遠い一曲を暗譜する!などの、1週間の課題をこの日1回の練習でものにするというような行動です。

こんな大きな目標が達成出来たら本望ですが、たいていは成功せずに落ち込むことになります。この繰り返しを続けていれば「練習」が嫌いになるのも当然です。ではどうすれば良いのでしょう?

まずは自分の決めたことが自分自身の力で果たせるという体験をする。欲張らず、毎日2小節でもいいから弾いてみるといったような小さな目標から始めます(親も指導者も一つ成功すると欲が出てしまい、次のステップに進ませがちですが、ここはぐっと辛抱です)。そしてそんなちょっぴりの成功を本人だけではなく周りにいる人間も心から喜びましょう。「ほんの少し手を伸ばせば届くような小さな成功体験を喜べる体質」、その体質が出来ることによって、ゆくゆくは自ら目標を定めて挑戦することを楽しめる人間に成長できると思うのです。

まとめ

1.練習が嫌い=ピアノが嫌いとは限らない
2.導入期は音楽にポジティブなイメージや興味を大切にしている指導者を選ぶ
3.指導者や保護者は子供自身が音楽のイメージを持てるように声掛けする
4.練習は量より質を重視
5.「練習」をポジティブなイメージを持つ言葉に変えて声掛けする
6.「考える子」に育てる
7・小さな成功体験も喜べるも体質を作る

今回は私自身のピアノ指導30年を振り返り、自戒の念を込めて「ピアノは好きだけど練習は嫌い」という生徒に焦点をあてて今現在の考えをまとめました。

子育ても同様ですが、ピアノ演奏も指導方法も対象となる子の性質や環境が異なるため、答えは一つに絞れません。その都度「考える」ことが出来る子供たちを一歩離れたところからアドバイスすることが大切です。そして、ピアノの前に座って何のルールにも縛られず無心に音楽を楽しんでいた子供たちの可能性を思い出し、その可能性の芽を摘んでしまっているのは、もしかしたら周りにいる私たち大人なのかもしれないという事も頭の片隅にいれて頂きたいです。

筋感覚をきたえて自分の理想の音を作る

ピアノは指だけを動かして弾いているのではなく、常に身体全身の様々な部分を協調して動かしているという事は、もうご存じかと思われます。今回は音(楽)を作り上げるための、全身の情報を得ることに欠かせない「筋感覚」についてまとめてみました。

目次
1.筋感覚とは?
2.ピアニストが筋感覚を養うメリット
3.筋感覚を上げるには
4.まとめ

筋感覚とは

「筋感覚」は普段、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の5つの感覚に新たに足されるべき、六つ目の感覚とも言われています。

筋感覚・・・視覚や触覚など古くから言われる感覚からの情報が一切なくても、自分の身体の位置や動きを知ることが出来る、厳密な意味では感覚情報と呼べるものです。私たちの身体には、位置と動きに関する情報を集めることのできる特殊な※神経終末が(主に関節や結合組織の中に)存在しているのです。情報を脳に送るこの神経は、映像,匂い、音、味、手触りといった他の感覚情報を伝達する神経とは異なり、「運動」に関する情報を脳に伝達します。したがって、この感覚は「運動覚」あるいは「筋感覚」他・・と呼ばれています。※神経終末・・・筋肉や腱の伸長に反応して活動する、筋紡錘やゴルジ腱器官など、感覚神経の末端にある固有受容器   『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋

このように私たちが普段当たり前のように使っている機能、例えば・・・目を閉じて頭の上に手をのせたり、手を見なくても思うような形に変えることが出来る、といった身体の様々な部分の位置や動き、身体の曲がり具合や筋肉の力の入れ具合を見なくても、感じることが出来る機能のことを言います。

※一般的に呼ばれる「筋感覚」という言葉は医学用語ではありませんが、深部感覚(深部知覚・深部覚)・固有感覚・固有受容感覚・自己受容感覚などとも呼ばれています。「身体内部の目」のような働きをさします。

ピアニストが筋感覚をきたえるメリット

「ある音楽をのイメージを思いついたとき、それがすぐさまイメージした音楽を奏でるのに必要な動きの筋感覚的な感覚に変換されるような(中略)音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるかどうかは、筋感覚を育て、身体との一体感を養い、優れたボディーマップを獲得できるかにかかっています。『ピアニストなら知っておきたい「からだ」のこと』より抜粋」

上記にもあるように、身体への気付きを養うこと、そして筋感覚」を育てることは動きの質を高めることになります。筋肉の「トーン」や「張り」また「収縮度合い」のグレーディング(感度)を上げて、音楽的要素と結び付けられるようになれば遠回りすることなく、どこをどうやって、どのくらい使えばいいか?が分かるようになるのです。やりたい演奏を確実に引き出してくれるツールになるのではないでしょうか。もちろん、その選択肢は数多くあるので、観察➡実験➡結果を繰り返し自分に最適な選択をすることは必須です。

筋感覚を上げる方法

筋感覚を上げるには、今までの使い慣れてきた習慣をいったん手放すことも大切です。ピアノの前以外でも、普段から新しいやり方を挑戦し取り入れてみましょう。

例えば…聞き手ではない方でアイフォンの操作をしてみたり、人差し指ではなく薬指や小指で操作する。他にも、電車のつり革につかまらず脚や体幹の筋肉を意識して重心のバランスを変えてみたりするのも面白いですね。普段使い慣れないものを使った時に感じる違和感を✖とせず、まずは実験しそれを分析してみる。これは身体の内部に目を向けるきっかけとなり、普段使わない筋感覚を上げることにも繋がるでしょう。

まとめ

ピアノの前はもちろんですが、その時間だけではなく、こんな感覚を普段から磨くことも大切です。実験し検証することを楽しめる自分を育てることは、ピアノの成長に繋がるでしょう。

演奏者が自分の望み通りの演奏を作り上げるには、思考と身体を改革していくことが大切だと常々思います。そのためには音楽的な想像力を筋感覚的な想像力と統合できるようにすることが重要な要素の一つとなるのではないでしょうか。

自分の作り上げた音楽(演奏)が全ての人と共感し合えるかどうかは誰にも分かりません(自分の望みを無視することで、より多くの聴衆が好む演奏を作り上げることも出来るかもしれません)。ただ、自分の信じる演奏が聴衆の周波数と一致することはあります。あのゾーンにも似た感覚を全てのピアノ奏者に経験して頂きたいと心から願っています。

自粛期間の棚卸し

~ピアノ講師の家事のウエイト~

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

緊急事態宣言の発令や世の中の新しい生活様式の変化で、行動や考え方を見直せざる得なくなった方が少なくないと思われます。今まで見えなかったものが見えるようになったり、今までの「あたりまえ」に疑問が湧いたりと、私自身も自分に向き合う時間が取れたことで、自分自身の行動を客観的に観察することが出来ました。今回はピアノ講師の家事についての観察(気付き)です。ご興味ある方はお付き合いください。

        
目次
1.仕事と家事
2.自動化された「動き」とそのメリット
3.感情から発動された「動き」のメリット
4.選択の自由
5.まとめ

※ご興味ある方はお付き合いください(しつこい・・・)。

仕事と家事

仕事何かを作り出す、または成し遂げるための行動・生計を立てる手段として従事する事柄・職業・業績 (デジタル大辞泉より)

家事・・・家庭内の事情や事柄・「掃除」「洗濯」「食事の支度」「育児」など家庭生活に欠かせない仕事。(デジタル大辞泉より)辞書から抜粋

「仕事」と「家事(家庭の仕事)」の配分は家庭のある働く女性働く、家庭のある女性?)には長年の課題です。

1980年頃は専業主婦の割合は約65%だったのに比べ、2018年では約33%(「厚生労働白書」より)となり、家庭のある働く女性は着実に増えています。※兼業主婦という言葉もありましたが、ここでは使用を控えます。

私も、もれなくこの「家庭のある働く女性」の一人です。

自動化された家事の「動き」とそのメリット

通常の私の毎朝の日課は、その日にやるべき家事内容と外出の要件、を全て書き出し、こなしたものから順にチェックして消すという「ミッション達成型」です。クオリティーに拘り過ぎず、こなせたかどうか?が私的には重要です。

午前中に夕食準備までのすべての家事を終わらせるため、感情に問いかける時間はあえて取りません。掃除・洗濯・そして食事も栄養バランスを考え(つもり)、尚且つお腹を満たす食材を考え調理し、完結するまでの作業中はいかに時短でできるか?ということのみ。ただ、やることが視覚化されているので最短の作業時間と計画遂行の「達成感」が自分の※承認欲求を満たしてくれます。自分で自分を褒めるという感覚に近いと思います。他者に賛辞を求めないので自分一人で完できることはメリットと言えるでしょう。

承認欲求・・・『他者承認』と『自己承認』の2つがあるが、上のケースは後者の『自己承認』:自分で自分を認めたいという欲求にあたる

         任務完了!

感情から発動された家事の「動き」とそのメリット

そんな日々が日課でしたが、コロナ禍の緊急事態宣言の自粛でその必要性を感じなくなりました。ピアノ教室も休講、子供たちも勿論休校で習い事もゼロ・・・時計を見なくてもお日様の高さと動きで生活できるような原始的な感覚です。(どこかで味わったことがある感覚…幼児期かな)

そんな日時計と腹時計を頼りにした環境は自分の感情を含めた「動き」を優先させてくれました。食事を例に上げるならば、食べたいから作る!とか、さらに美味しく完成させる!というような感じです。感情を伴う動きは集中力が持続し、作業中も楽しめるのがメリットです

選択の自由

6月に入り、自粛もひとまず解除され、以前のリズムが少しづつ戻って来ました。上のように感じた経験から「『感情から発動された動き』を採用して、いわゆるポジティブな生活が新習慣に!」となる結末ではあまりにも応用力がない(笑)。

「自動化された家事」は感情のエネルギーが少ないのでその後の仕事に支障が出ない。これはこれで充分使えます。そして、「感情から発動された動き」は感情の分量を調節することで変化と集中力をが出せると今回の期間で実感できました。全力で家事と仕事の両方に打ち込むのも憧れますが、それは私にとっては理想論。そんなことをやっていては夜までの仕事がやりきれない(あくまでも私のケースです)。

まとめ

自分の行動を客観的に観察することで気が付かなかった・見ようとしていなかった行動の意図と変化が見えた。そのことが今回の棚卸し作業での気付きです。

観察の結果から何を取り入れるか、取り去るかをその都度考えること。自分の行動も感情も選択することが出来るということ学びました。何が正解か?という答えは一つではなく、しかもその時の様々な状況でも選択は変わっていくでしょう。心穏やかに生きる私の新生活習慣の一つとして覚えておくことにいたします。皆さんも「生活習慣の棚卸し」おススメします!

※そして、ここまでお付き合い下さったことに感謝です!

ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・14

練習中に腰が重くなる方へ

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

長時間練習を推奨するわけではありませんが、中上級者であれば普段のピアノ練習に1時間~3時間続けて行うことは珍しくないことだと思われます。曲のタイプにもよりますが手・肩の疲労の次に長時間の練習で腰の違和感痛みを覚える方が多いようです。

また、緊急事態宣言の外出制限のなかでピアノに向かう時間が増えた方もいらっしゃるでしょう。今回はピアノ演奏の際軸と腰の骨(腰椎)、それを支えている筋肉を知り、座って快適に演奏するということを考えていきたいと思います。

目次
1.椅子のポジションはミドルCの前?
2.まずは軸骨格の仕組みと役割をを知る
3.腰椎を含むしなやかに連なる脊椎を知る
4.演奏時の軸骨格と腰の筋肉はどうなっているか
5.他の選択肢も考える
6.まとめ

※要点のみ知りたい方は1・2・3・は読み飛ばしてokです。

椅子のポジションはミドルCだけではない

鍵盤は直線状に88鍵・123cmにわたって並んでいます。現代のピアノ学習では真ん中のド(一般的にミドルcと呼ばれている)から一音づつ増やしていく学習法が一般的なこともあり、ピアノの椅子はほぼ真ん中に設置しそこの位置に座ることがごく当たり前とされています。

ただこれは初級ピアノ学習者の曲には当てはまりますが、中級上級になると曲によって頻繁に使われるポジションが異なります。にもかかわらず、初級者の時のポジションのまま弾き続ける方は専門的に学んでいる演奏者にも非常に多いようです。

では高音⇄低音と遠くの鍵盤を弾く際に軸骨格や骨盤がどのように動いているのか見ていきましょう。

まずは軸骨格の仕組みと役割を知る

人の骨はざっくり2つに分けられます

  • 頭と軸=軸骨格
  • 腕と足=付属骨格

今回のテーマである腰にある腰椎が含まれる軸骨格頭蓋骨(咽頭の骨も含む)・脊柱肋骨及び胸骨の体の長い軸に沿う骨すべてを含みます。(幻のツチノコ体系を想像させる図⇩)

付属骨格なしでも生きていくことは可能ですが、この軸骨格なしでは生命は維持できません。

         軸骨格
     画像はvisible bodyより引用

腰椎を含むしなやかに連なる脊椎を知る

                脊椎を右側から見た図
             ⇦背面         前面⇨

上の図は右側から見た脊椎(背骨)の図です。とがった恐竜の棘のようなものが背面になり、身体の中心部分には積み木(orだるま落とし)のような円柱状の椎骨という骨が椎間板というゼリー状の弾力があるクッションを挟んで24個重なっています。魚類はほぼ同じ太さの骨が連なっていますが(重力が上からかからないため椎間板の必要もなし)、人類が直立して生活するようになり、重い身体を支えてバランスを取るためにこの緩やかなカーブと下にいくほど太くしっかりとした椎骨が出来たのだそう。

・頸椎・・とにかく自由度高い万能選手たち、前後に曲げ伸ばし・左右に側屈・回旋もできる・2個の関節面で頭蓋骨を支えています

・胸椎・・・回旋が得意・✖棘の形状から後ろに反ることが出来ません(胸椎の下2つは後ろに反ることも可能で万能選手ともいえます)

・腰椎・・・前後に曲げ伸ばし・左右横に側屈・✖回旋(ねじる)はほぼ出来ません

※椎間板ヘルニアに頸椎腰椎部分で起きるのは、よく動く部分なので椎間板への負担が大きいから   by解剖学者:坂井建夫氏

体重を支えているのは棘の部分ではなくこの円柱状の椎骨と椎間板だという事や、脊椎は一本の棒ではなく沢山の椎骨とクッションの役割をする椎間板がしなやかに繋がりS字型を描いた骨の集まりであるという事、腰椎はこの連なりの一部という事を意識することだけでも動きは変わっていくでしょう。

演奏時の軸骨格と腰の筋肉はどうなっているか

ここからはいよいよ演奏の際の身体を腰回りを中心に見ていきましょう。

ミドルcポジションの中央に座った場合で、指の届かないポジションに指(腕)を持っていった場合を探求します。

今回は高音域を弾くために腕をそちら側へ持っていきます→腕だけでは届かないと確認した時点で(もしくは予測した時点)→腰椎は右へ曲がっていきます(赤色の部分はこの時に使われていると思われる筋肉群)⇩

もう少し身体の奥深くを見てみると、腰方形筋という身体の奥深くにある筋肉(ここでは薄ピンクで示されてます)が側屈を手伝っています⇩。

       腰方形筋(右のみ)

腰方形筋は脊椎の左右に付着していて、片方づつの収縮で体幹を側屈させます。この筋肉は脊柱の安定性に重要な役割を持っていて、どちらかがたくさん働いていたり、また逆にどちらかが弱くなっていたりすると骨盤の高さに左右差がうまれて痛みを発生させたりするようです。

その為、高音域にばかり、もしくは低音域ばかりに偏って腰を側屈させていると腰方形筋の左右差が生まれて重くなったり痛みをもったりするようです。(ゴルフのスイングや野球のバッティングも同じ方向へのスイングのためバランスが悪くなるので要注意)

今回はこの筋肉の使い方による痛みに焦点をあてていますが、筋肉以外の故障で痛みを引き起こす場合もありますので(ヘルニア他)痛みが出た場合は医療機関で診て頂くのが大前提ということをお忘れなくお願いします。ピアノ演奏の場合、もちろん癖もあると思いますが、どちらかに偏って演奏する曲の場合は、練習後に使った腰方形筋とその反対側のストレッチも忘れずに行うことをおススメします。(ストレッチは様々な方法があります。私が行っているストレッチはまた後日アップしたいと思っています)

他の選択肢も考える

選択肢1:座るポジションを変える

ピアノ演奏時もそれ以外もですが、椅子に座るときは坐骨2点と脚2点の合計4点で上半身を安定させます。(厳密には坐骨の前側部分で座ることを意識します)。赤く囲んだ○の部分

ただ、鍵盤の中央からかなり遠い部分まで指を届かせるのに両方の坐骨にバランスよく乗り続けるのは、よほどの体格の持ち主か、極端に、腕が長い方でない限り無理があります。そこで一つ目の選択肢としてはミドルcポジションの前に座る事に拘らず、偏りがちな音域の方に少し座る位置(坐骨の位置)を移動させるのはどうでしょう?ほんの数センチでもかなり腰の負担が変わることが分かると思います。

選択肢2:脊柱起立筋も使い、行きたい方向に上も加える

またミドルCのポジションの前に座ることを選択される場合は高音低音時に座骨の両方の2点に座り続けることに拘らないようにしましょう。時には座骨のどちらかを離し、脊柱起立筋という重力に逆らって上方向に向かう(側屈も手伝う)筋肉群を使いながら指のリードで弾きたいポジションに移動することも選択肢の一つと言えます。その時、脚の支えは多いに活用しましょう。

脊柱起立筋群(棘筋・最長筋・腸肋筋)
作用:身体を上方向に伸ばす・身体を横に曲げる(側屈)

まとめ

まずは身体の中で何がおきているのかを知ることが大切です。そのうえで、座るポジションを曲によって変えることも検討しましょう。人の身体は基本的に頭のてっぺんからつま先までの全身を使って動かすことでバランスを取っていることも忘れずに、可能な限りの選択肢を出し、実験し、その時の自分に合っている場所を見つけることを怠らずに探求してください。

F・M・アレクサンダー物語

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

このHPでちょいちょい見かける「アレクサンダー・テクニーク」というワード。某大手音楽カンパニーの本棚にその名の書籍が並ぶようになったとはいえ、「アレサンダー・テクニーク」と言い間違われたりしてまだまだ認知度が高くなったとは言い難い(私も学び始め初期はアレサンダーと言ってたし)。今回はふんわりと頭の片隅に置いておいてもらえたらいいなって感じの柔らかなノンフィクションといま現代のアレクサンダーテクニークの個人的意見です。

目次
1.F・M・アレクサンダーの物語
2.あの人も学んでいた!?
3.アレクサンダーテクニークの根本となった原理

F・M・アレクサンダー物語

むかしむかし、そんな遠い昔でもない100年くらい前のむかし、オーストラリアのタスマニア島というところに10人兄弟の1番上としてアレクサンダーさんが生まれました。釣りや狩り、乗馬など、のどかな少年時代を過ごしたアレクサンダーさんでしたが20歳になると大都会メルボルンに渡ります。演劇が大好きだった彼は働きながら朗誦家(ろうしょうか)という舞台で詩を朗読する勉強をはじめました。

ところが、ある日舞台でいつものように朗読していると声が出なくなるというハプニングが起こります。その後もかすれたり声が出なくなることが続き、お医者さんからも「声を出さなければ治るでしょう」といったアドバイスしかもらえませんでした。そこで彼は自分自身で舞台に立った時に起こる声の不調の原因を探し始めました。たくさんの鏡を用意して自分を観察するのに長い年月をかけました。ついに、普段の生活での話し方には見られない、舞台で声を出すときだけにやってしまっている必要のないことに気付きます

      「ワタシ アタマ オシサゲテ イルネ!」

ほんのちょっぴりの動きではありましたが、彼は頭を後ろに下に押し下げ口から息を吸う喉の部分(咽頭)を押していることに気付いたのです。

これがその後、身体のパフォーマンス能力を上げると広まっていった「アレクサンダー・テクニーク」の発見でした。それからメルボルンやシドニーで声を使う人たちに教えることをはじめ、徐々にお医者さんたちにも認められていきました。その後、彼はテクニークをさらに広めるため、ロンドンアメリカに渡り、次の世代につないでいくお弟子さんたちを育て、演劇界だけにとどまらずアレクサンダーテクニークは世界中に広がっていきました。今では欧米の音楽大学で正規の授業として取り入れられています。

        おしまい

あの人も学んでいた!

アレクサンダーテクニークを受けた有名人

俳優:ロビン ウイリアムズ、キアヌ リーブス、ビクトリア ベッカム、パトリック スチュアート、クリストファー リーブス、ヒラリー スワンク他・・・

ミュージシャン:ポール マッカートニー、スティング、松任谷由美、鈴木重子、他・・・

指揮者:サー コリン デヴィス他・・・

声楽家:エマ カークビー他・・・

バイオリニスト:ユーディー メニューイ他・・・

アレクサンダーテクニークの根本となった原理

F・M・アレクサンダーさんの死後、沢山のお弟子さんたちに技術は受け継がれていきましたが、伝わり方も多様化していったと言えるでしょう。私自身も解剖学をヒントにしてアレクサンダーテクニークの技術を使うのを好みますが、F・M・アレクサンダーさんが最初に発見した「頭と脊椎の関係がからだ全体のバランスを決定づける」という原理(7つの原理のうちの一つ)は本来の身体の動きを取り戻すために最も大切なことで、解剖学の知識や思考のくせなどを考え直す前の第一に、思い出すべきポイントだと考えています。

   まずは頭を脊椎の上にふんわりとのせて!

練習する量(努力)に上達の見返りを求めていませんか?

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

ピアノの上達や、何かしらの技術を習得するという事には練習は不可欠です。練習した時間に比例した結果が与えられはず・・・「努力は裏切らない・努力は報われる」と殆どの人々が思っている(願っている)ように感じます。・・・でもそれを言葉のまま信じてよいのでしょうか?

目次
1.努力は裏切らないって本当?
2.目的を持った練習の重要性
3.意味のある工夫とプロセス(手順・方法)

「努力は裏切らない・報われる」って本当?

坂道を登る人のイラスト

常に時計の針を気にしながら、「練習時間」の記録更新に喜びを覚えた幼い時期を過ごした方は少なくないのではないでしょうか(もれなく私も)。学び始めの曲の場合、反復練習も必要ではありますが、指導者や保護者の誤った声掛けによっては時間をかけてやった分だけ上達できると思い込んでしまうことがあります。

関節痛のイラスト(手首)

さらに目的(望み)から結果までの間のプロセスをすっ跳ばしたやみくもな反復練習は時間の浪費だけでは済まず、手の故障に繋がる場合もあります。

目的を持った練習の重要性

旧100ドル札のイラスト
ベンジャミン・フランクリン👆

アメリカの建国の父ベンジャミン・フランクリン(時は金なりの名言を持つ)も「同じことを何度も繰り返しながら違う結果を期待することを「狂気」という」と言ったと記録されていますし、

何を練習したか?ではなく、いかに練習したかが重要であるとは ピアニストであり最良の解釈家として高く評価されているバックハウスの言葉。
「ただ練習すれば良いのではなく、どのように練習するのかを”考える”ことがとでも大切である」と語っていたそうです。

意味のある工夫とプロセス(手順・方法)を考える

ピアノだけに留まらない事ですが、何かを習得したいと思い立った時に気持ち的な焦りから数打てば当たる「がむしゃら」行動に出がちです。ここでまず大切なのが、冷静に手順・方法を考えること。以前に記事に書いたものと類似しますが・・・
①のぞみを明確(具体的に一つに絞る)にする②観察する③分析する④プランを立てる⑤実験する⑥結果を判断する
仮にこれがプランAとして、そのプランAが思い描いた結果に至らなかった場合は、プランBを練るべく②~⑥を繰り返す。

観察を伴い、方法を工夫した思考錯誤が上達への近道だと思うのです。(自分一人で限界がある場合は指導者等に観察してもらう選択も出る)

量を求めるのではなく質にこだわった練習を重ねた場合の「努力」に限り「努力は裏切らない・努力が報われる」と言えるのかもしれません。

※コロナの緊急事態宣言もあり、実習生の募集は一旦締め切らせて頂きます。5月以降に再度募集のご連絡を申し上げます。

 


ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・13

呼吸の工夫でピアノ演奏をさらに上げる!

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

管楽器奏者や声楽家は呼吸と音楽のフレーズを一致させなければ演奏は出来ませんが、ピアノ演奏はどうでしょう?

意図的にもコントロール可能な呼吸の動きですが、自律神経の支配を受けていることもあり、日常においては呼吸は無意識の働きです。ピアノ演奏中は技術や演奏の質を高める意識が強く働くため、多くのピアニストは呼吸の状態に気を配ることはほぼないと思われます(難関パートでは息を詰めることも多い)。ただ実際はピアノ演奏中の呼吸も私たちの身体に作用し音楽にも影響を与えています。呼吸の現状を把握することで演奏に効果的な呼吸を探求し、選択して頂きたいと思います。

目次
1.覚えておきたい呼吸を支える場所
2.そもそも呼吸のしくみって?
3.ピアノ演奏中の呼吸で覚えておくとお得なこと
4.まとめ

覚えておきたい「呼吸を支える3つの場所」

  • 肋骨
  • 横隔膜

・・・肺はガス交換の場所で鳥籠のように囲まれた肋骨で守られていて、肋骨一本一本がバケツの取ってのように上方向に持ち上がることで容積を増やすことが出来ます。肺の上部は鎖骨のくぼみのところまで、下はみぞおち、背後は背中まであり想像以上に胸腔内(肋骨内部)を占領しています。

肋骨・・・肋骨の骨と骨の間には肋間筋という筋肉があり、この筋肉が肋骨の間を狭くしたり広くしたりして胸郭内の容積をコントロールしています。この動きと横隔膜が下がることが協力し合って、空気を取り込むことが可能になります。

・横隔膜・・・横隔膜は筋肉です。自律神経の宝庫とも呼ばれているそうですが、主な働きは空気を出し入れする働きを担っています。肋骨の下の部分からパラシュートのように付着していて、そのパラシュートの傘から腰椎に沿って脚のように筋肉が付いています。肋骨の動きも伴いますが、このパラシュート状の横隔膜が上下することで空気が出入りします。↓

    余談ですが・・・横隔膜は焼き肉の部位でいう「ハラミ」

そもそも呼吸の仕組みって?

  1. 横隔膜や外肋間筋が緩み始めると(横隔膜のパラシュート部分が、高い位置へ)肋骨・肺で構成される胸腔の密度は小さくなる。その際に肺に入っていた空気は自然と口や鼻から出ていく呼気から開始することを意識するのがポイント)➡
  2. 横隔膜の筋肉が収縮することで横隔膜自体が下に下がっていき(パラシュートの山が低くなる)、同時に肋骨がバケツの取ってが上がるように上方向に持ちあがり、肺のある胸腔内が広がる
  3. 内部の圧力が低くなり(陰圧)口や鼻から自然に空気が入ります(吸気)➡1・2・3が繰り返され続けるのが呼吸運動)

※呼吸のコツ

・吸う(吸気)時に横隔膜の下にある臓器は押し下げられ、最も下まで行くと骨盤の一番下の骨盤底筋群まで到達します。この時に腹筋群を固めてしまうと内蔵の行き場が限られてしまい、吸う息の量を制限してしまうので沢山の空気を取り込みたい場合は腹筋群は緩めましょう。逆に積極的に吐きたいとき(勢いよく吐く)は腹筋群を使います。

・肋骨は脊柱(背骨)にくっついていてそこにある関節のお陰で上下に自由に動くことが出来ます。地面とつながっている骨に身体の重みを支えてもらい、胸郭の周りの筋肉の支えの仕事を減らすと脊椎と繋がっている肋骨は自由に動けるようになります。また、胸郭の周りの腕を動かすための筋肉の仕事を減らし、背中を柔らかく使うことも呼吸をし易くするコツとなります。

ピアノ演奏中の呼吸で覚えておくとお得なこと

  • 深い呼吸が出来ているとうことは腕(鎖骨や肩甲骨)が呼吸の際に必要な関節を引き留めずに自由に動かせる状態になっている➡指のコントロールの可能性を高くする。・・・深い呼吸をするには胸郭の周りにある余分な緊張を取って呼吸の際に使われる筋肉を自由に動かせるようにすることがポイントとなります。呼吸の仕組みでお伝えしたように吸気の際には肋骨が上方向に持ち上がります。ピアノ演奏時は緊張から鎖骨を引き留めてしまいがちですが、引き留めてしまうことで深い呼吸は出来なくなります。ということは・・・深い呼吸が出来ているということは鎖骨や肩甲骨が自由に動けているということになります。「ピアノ演奏者が知っておきたい大きなこと・10・腕はどこから?」でもお伝えしたように腕は指先から鎖骨までと考えます。腕の根っこである鎖骨や肩甲骨を動かないように押し付けていると本来動くはずの指が動きにくくなります。
  • 曲の開始直前に鼻から深く吸気をすることもお薦めします・・・喉には息を吸い込む筋肉は存在しません。鼻から空気を取り込む動作はこの喉で吸い込もうとする間違った動作を防ぐことが出来るでしょう(口呼吸は喉と鎖骨周りにも緊張を与えがち)。そしてこの鼻呼吸は身体のバランスを保つ頭と脊椎の関係性を良い状態にするともいえます。
  • そもそも呼吸は酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するガス交換のための運動です。緊張時に呼吸が浅くなることで十分な酸素が脳に届けられなくなりなり、思考力も落ちる可能性があります。
  • また、吸気の際には交感神経が働き、呼気はリラックス効果が高い副交感神経が働く(セロトニンという脳内ホルモンも分泌)ことから、吐くことを意識することにより副交感神経が働き、落ち着いた状態を保つことが出来ます。

まとめ

呼吸は今回お伝えした以上に奥深いものですが、今回はピアニストが知識として持っていることが望ましいと思われる最低限の情報をお伝えしました。(フレーズ間の呼吸等はほとんどの皆さんが実験済みのこととして説明は省きました。)

演奏時に呼吸の意識をするか?意識をしないことを選択をするのか?の相性や個人差は勿論あると思います。他の技術を取り入れるときと同じく、その都度、実験しその時の自分に合った選択を根気よくやって頂けることを願います

ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・12

快適なペダル(ダンパーペダル)の踏み方

こんにちは。「信頼される指導力と根拠のある技術を身につける!」ピアノ講師とプレイヤーを応援する 山本玲です。

前回の「ピアノ演奏者が知っておきたいお得なこと・11」では演奏中 脚も意識に含めることで、パフォーマンスの質は確実にアップすることをお伝えしました。

今回の「演奏者が知っておきたいお得なこと」シリーズはペダルを踏む際に知っておくとお得な脚と足のマッピングになります。

ペダリングで大切な「足関節のマッピング」

足(床やペダルに触れる部分から足首と呼ばれる部分)の関節をL字型と思っている方が殆どです。でも実際の足関節はTの字が逆さになっている形です。⇩

        ここが足関節 (逆T)

L字型のミスマッピングでペダルを踏んでしまうと、どこかしらに痛みを感じるようになります。足の動きで重要なことは踵の後ろで起こるのではなく踵の骨の前の足関節で起こるという事。

踵は床についていますが、ペダリングでは膝や股関節の動きも少しですが伴います。膝と股関節も使うということは体重を座骨にのせてバランスをとって座ることも前提として大切なことです。(体重が座骨に伝わると脚は自由に動かせます。)

足関節・膝関節・股関節も微細ながら動きが生じている

ペダルの上に置かれた足が上下に動くと足関節・膝関節・股関節も動きが生じて脚全体に動きが生じます

ピアノは靴の文化圏で誕生した

日本では練習の際に柔らかいスリッパや時には素足で踏む方が多いようですが、そもそもピアノは室内で靴を履く文化圏で生まれた楽器です。そのため素足で長時間ペダルを踏むには無理のある構造と言えます。また素足でのコントロールに慣れてしまうと、厚い皮の靴底でペダルを踏んだ時に少しの力で下がることに気付くでしょう。時折、ステージ本番でペダリングの加減をコントロールすることが出来ず、踏み込みすぎや切り替えがあまくなり濁った音が響き渡る演奏に出会うことがあります。これは本番だけ靴を履いてしまうと起こりやすい例です。練習でも本番と同じ条件でペダリング出来るように配慮することが望ましいでしょう。

まとめ

ペダリングの際の足の動きが起こるのは踵が床に触れている部分ではなくその前にある足関節で起こる(逆T字)。

ミスマッピングで記憶してしまうと、筋肉緊張に繋がり大腿四頭筋や脛、股関節に痛みや違和感を伴う場合がある。

本番と同様のコンディションの履物を選び、練習する。

●そして・・・度々お伝えしている特定の部位のみに意識を集中することを避け、身体全体を意識に含める。※足と脚だけに意識を向けてペダルを操作するのではないという事も覚えておきましょう。すべてのバランスの場所を互いに協調させることで身体の動きは本来の質を取り戻せます。