作曲家が残してくれた楽譜はピアニストが曲作りをする上で、最も大切な設計図です。とくにクラッシック音楽はこれを無視して音楽を作りあげることが出来ません。そして、同じ設計図(楽譜)を読み込んで演奏しても、演奏者それぞれの持つ個性や表現力で、一つとして同じものにはならないという事も音楽を作りあげる面白さです。ただ、経験の少ない幼児やその意識を持たずして成長してしまった生徒さん、または詳細まで作り込んでくれる先生に長期間指導してもらった生徒さんなどは「こう弾きたい!」がなかなか湧き出ないことが多い(個人差あり)。自ずから湧き出す「表現力」を育てるには、指導者の適切なアドバイスやプロセスを踏んでいくことが求められます。
私のレッスンを受けるようになって1年程経った生徒さん(高校生)とのレッスン中、「この曲をどんな風に表現したいか?」「自分のやりたいこと・伝えたいことは何か?」について話し合ったことをもとに、ざっくりまとめてました。
もくじ
1. 演奏者が曲を通して伝えたい事は何?
最初にお話ししたようにクラッシック音楽は作曲家の残した設計図である楽譜を無視することは出来ない大前提があります(もちろん出版社によって楽譜の解釈は多少変わります)。それでも演奏するピアニストによって一つとして同じ曲にならないのはなぜでしょうか?
書かれたアーティキュレーションやその他の指示通りに弾いても演奏が異なってくる理由としては、タッチやイメージする構成が違うこともあげられますが、演奏者がその曲に込めたメッセージが大きく影響を与えていることが大きいです。受け取る側(聴く人・聴衆)のスキルもある程度は影響するとは思いますが、テクニックだけを披露するのは曲芸やサーカスにお任せしましょう。演奏者はその曲の背景を音に表し、それを周りと共有すること、そして誰に何を届けたいか?を明確にすることも大切です。
2. 何を伝えたいか?表現すればいいか?が、分からない生徒さんへのアドバイス
「表現力」とは・・・感情や思考などを伝達可能な形式に表す能力とあります<weblio辞典より>。私自身にも経験があるのですが、「どう表現したいか?」のアイディアや感情は経験が浅い幼い頃にはなかなか浮かばないものです(個人差あります)。指導者によっては幼いうちから「表現力」を引き出すことに長けている方もいらっしゃるとは思いますが、アイディアが浮かばない生徒さんに対しては、”お気に入りの演奏を見つける”ことや、沢山の「模倣」も大切です。音楽界に限らず美術界の巨匠たちも若い頃は「模倣」をする事によってスキルや独自の個性をみつけていきました。
今回の対象となっている高校生の生徒さんも曲が仕上がっている段階に来ていたにも関わらず、伝えたいメッセージや具体的な表現方法がどうしても浮かばないと悩んでいました(発表の場の予定がある曲ではなかったので具体的に届けたい対象のイメージが湧きにくいようでした)。高校生なので携帯も所有していることから、私はSNSなどでお気に入りの演奏を探すことはどうかな?とお題を出しました(理想の模倣の対象を自ら見つける)。このようなケースの場合、指導者が模範演奏をするケースももちろんあります。幼児はそのほうがスムースかもしれません。ただ、ある程度の判断力の備わった年齢の生徒には指導者の好みを押し付けることになり兼ねない危険があるため、今回は模範演奏は取り入れませんでした。
3.やりたい表現を伝えるための具体的な技術は指導者がサポート
その後、そのいくつかの演奏のお気に入りの箇所の観察と実験を繰り返し、その演奏の魅力と音色について話し合いました。またその音色を出すにはどうすればいいのか?も考えてもらいます(私も一緒に探求)。
お気に入りの演奏➡その手に入れたいフレーズの表現➡その欲しい音を作りだすには?とまず目標を細分化して「のぞみ」を一つに絞ります。”欲しい音を作り出す技術” はよほどの卓越した生徒さんを除いては、経験のある指導者の力が必要になってくるでしょう 。音の作り方は各先生のご指導方法によって異なってくるので、ご興味ある方は私の別のブログやYouTube(アレクサンダーテクニークを取り入れたレッスン動画)を参考にして頂ければと思います。
また、若いピアニストさんは目の前にある魅力的な欲しい音・魅力的な弾き方ばかりを並べてしまって、伝えたいことを忘れてしまう傾向があります(フルコース全品がメインディッシュ的な)。この辺りを客観的にアドバイスして本人自身にまとめさせていくのも指導者の役割だと思います。
4.まとめ
「のぞみ」を細分化し一つに絞り、それを1つずつ解決して行くことはメンタル的にも非常に大切なことです。ただ「これは出来たけど・・まだここが出来ない・・・」と、素直にのその瞬間を喜べない気質の性分の人が多いのも事実(日本人多し)。 “小さな解決の喜びを味わう”ことは、次へのステップの意欲にも繋がります。 まずはたとえ小さくても一つの「のぞみ」の解決を生徒と一緒に喜び、そして味わうことも講師の大切な仕事です。
そうした習慣を積み重ねることによって、生徒さん自身も自ら決定したことに自信を持ち、表現することや音楽を届けることに意欲的に取り組むことが出来るようになっていくと信じています。